ポジトロニウム

キセノン気体とのスピン転換反応を利用して、オルソーポジトロニウムと気体分子の相互作用を測定します。

 

図3.1 : キセノン気体中におけるオルソーポジトロニウム(o-Ps)の冷却過程。時定数 50ナノ秒 で熱平衡に到達する。図は論文より引用。

 

背景

ポジトロニウム(Ps)は、電子1個と陽電子1個で構成されるエキゾチック原子です。スピン一重項状態のパラーポジトロニウム(p-Ps)は、寿命0.12ナノ秒ととても短く、寿命後は共にエネルギー511keVを持つ2個の光子に変化します。それに対し、スピン三重項状態のオルソーポジトロニウム(o-Ps)は、寿命142ナノ秒と比較的長く、寿命後は3個の様々なエネルギーを持つ光子に変化ます。

本研究室では、o-Psとキセノン(Xe)気体の相互作用を詳細に研究してきました [K. Shibuya, T. Nakayama, H. Saito, and T. Hyodo, "Spin conversion and pick-off annihilation of ortho-positronium in gaseous xenon at elevated temperatures", Phys. Rev. A, 88, 012511(2013).][K. Shibuya, Y. Kawamura, and H. Saito, "Time-resolved determination of ortho-positronium kinetic energy utilizing p-wave scattering during positronium-xenon collision", Phys. Rev. A 88, 042517 (2013). ]。他の気体分子と異なり、Xe気体は原子番号が大きいため、o-Psからp-Psに変化する相互作用(スピン転換反応)が起こります [ H. Saito and T. Hyodo, "Experimental evidence for spin-orbit interactions in positronium-Xe collisions",Phys. Rev. Lett., 97, 253402 (2006). ]。本研究室がこれまで詳細に研究してきたo-PsとXe気体の系に、ヘリウム(He)気体など異なる気体分子を混合することで、o-Psと分子の相互作用パラメーター(運動量移行断面積)を、従来手法よりも精密に測定できると期待されます。

 

波及効果

o-Psのバッファーガス冷却とボース・アインシュタイン凝縮の研究、p-Psをゲイン媒質とした511keVガンマ線レーザーの研究に貢献します。